
弁護士事務所において、優秀な事務員が、結婚や出産、育児、あるいは介護といった家庭の事情により、退職を申し出られた場合、正直困ってしまう、という話は多いのではないでしょうか。正直、同程度の即戦力となる職員をすぐに確保することはできません。そのため、テレワークができるような執務体制にしておくことで、退職を回避することができるかも知れません。
とはいえ、弁護士事務所の場合、元来がテレワークになじまない業務であるため、テレワークの導入が可能なのか、疑問に思う方も多いでしょう。しかし何事にも「はじめて」はあるものです。本記事では弁護士事務所においてテレワークを導入するためには、どのような課題がありどのような対策があるかをご紹介しています。
目次
テレワークに伴う弁護士の課題
最近ではテレワークを導入している企業も多く、育児など生活との調和を図りながら働くことができ、ワーケーションといった新しい働きかたが生まれてくるなど、テレワークの導入によって全てがうまくいくかのように思われがちです。
しかし、テレワークによって働き方が多様化するとともに、様々な課題が生じているのもまた事実です。このテレワークに伴う課題に対して適切に対応することができなければ、業務に支障が生じてしまい、せっかく導入したテレワークも、中止せざるをえなくなるかも知れません。
ここでは、テレワークとは距離があるように見える「弁護士事務所」が、テレワークを導入するに当たっての、課題とどのような解決方法があるかを具体的に説明していきます。
紙媒体による業務が多い
IT化によりペーペーレスの働き方が進んでいる現代においても、弁護士の実務の世界では、紙に印刷した書類を必要とする「紙文化」が根強く残っています。裁判所等に提出する訴状等は紙であることや、裁判所から届く郵便物も紙です。自分の弁護士事務所内だけテレワークを導入しても、紙による印刷は必須になりますので、テレワークをしている職員に代わり、誰かが出勤して資料の印刷などの業務を行うことになります。
根本的に、裁判所や検察庁も含めて、業界全体のIT化、ペーパーレス化が進まないと、いつまでもテレワークの導入はできないでしょう。ただ、目先の対応だけ考えれば、上司である弁護士がローテーションによる事務の分担を指示することで、多少効率は落ちるかもしれませんが、テレワークの導入は可能と言えるでしょう。
セキュリティに不安がある
仕事の性格上、個人情報など外部への漏洩が許されない情報を扱うことが多いのも、弁護士事務所におけるテレワークを妨げる要因のひとつです。これまでの仕事の流れから、紙で個人情報を保管していることが多く、基本的にこうした資料を事務員が持ち出すことは認められませんから、結果として出勤しての作業とならざるをえません。
仮に個人資料について電子媒体への記録が進んできているとしても、これをうかつにメールで送信したり、USBなどで持ち出したり、自宅でこうしたデータを用いて作業する場合には、紛失したり他人の目に触れたりしないかという不安がつきまといます。万が一、個人情報が流出でもしたら、弁護士事務所としての信用は大きく損なわれることとなります。
それでも、テレワークを導入するのであれば、一定のリスクは織り込まざるをえません。その上で情報漏洩のリスクが最小限となるよう、上司である弁護士が情報持ち出しのルールを作成して厳格に守らせることが重要です。
事務員のテレワークが難しい
前述の通り、訴状の提出など紙媒体が原則とされている事務が多いことや、個人情報が関わってくる事務が多いことが、弁護士事務所においてテレワークを難しくしている主な要因と言ってよいでしょう。特に、こうした事務の多くを事務員に任せている弁護士事務所は多いと思われますので、結局、事務員が出社せざるをえないこととなり、世間の流れとは逆行しているように感じられてしまうでしょう。
上司である弁護士は、仕事の性格上、テレワークが難しいと思われますが、仮に顧客との面談や裁判所との相談などがリモート会議などで可能となれば、日常的にテレワークを導入することができるかもしれません。その場合でも、事務員だけは紙媒体を扱うために出勤しなければならないとなると、これはこれで不公平感が募ることでしょう。
上司である弁護士は事務員にそれを納得してもらうように説明することが不可欠ですし、フレックス勤務の導入や特別な手当なども考慮すべきではないでしょうか。
テレワークに伴う弁護士事務所事務員の課題
少し視点を変えて、マネジメントという観点からテレワークの問題を考えてみましょう。管理職の立場からすると、テレワークを導入した場合、従業員の勤務状況の他、過労やメンタル面での問題がないか、あるいは業務の進捗管理についてもチェックがしにくいという悩みがありますこうした点について、弁護士事務所の課題と対処方法を見ていきましょう。
事務員の作業進捗状況管理が難しい
テレワークによって事務員の管理が行き届かなくなった場合、弁護士事務所ではどのような問題が起こるでしょうか。そもそも弁護士は常に過重労働と言われていますから、事務員のサボりや業務効率の低下によって、業務の遂行に支障をきたすことになれば、それを補うために弁護士が働きすぎて体を壊してしまうかもしれません。さらに、弁護士はクライアントありきの仕事ですから、信用を無くしてしまうという最悪の結果にもなりかねません。
事務員にテレワークをしてもらう場合には、忙しい中であっても業務の進捗を日々メールで報告してもらうとか、チャットなどでこまめに様子を聴いたりアドバイスするなど、通常よりきめ細かなコミュニケーションによって補うことが必要といえます。
事務員全員に浸透するまでに時間を要する
事務員全員がテレワークの導入に前向きというわけではないでしょう。我が国の多くの家庭では、自分専用の仕事部屋があるわけではありませんから、自宅でテレワークをするとなると、仕事とプライベートが時間的にも空間的にも切り分けられなくなり、仕事をする気にならないという人がいるのもいたしかたないことでしょう。
しかしながら、このたびの新型コロナウィルスの感染拡大により大幅な出勤回避が求められたことからも、いつでも出勤して仕事ができるとは限らないことを私たちは知らされました。また我が国は災害大国であり、大洪水や大地震によって交通機関が麻痺し、しばらくの間出勤できないことも大いにありえます。
そうした背景からも、テレワークができるようにしておくことが必要だということを、各職員に理解してもらうようにしましょう。
相談者への対応が大変
もちろん弁護士の仕事に特有の事情も、テレワークへの切り替えを難しくしています。まず、クライアントとのやりとりは基本的に直接の面談です。弁護士事務所に持ち込まれる相談は、入り組んだ事情があることも多く、面と向かってでないと話しにくいこともあり、電話やメール、web面談だけでは、相手の意図を十分汲み取れない不安がつきまとうのではないでしょうか。
また、債務整理案件では、原則として直接の面談が義務づけられおり、リモートでの対応は認められていません。これについては、クライアント等との日程を調整することにより、基本はテレワークとして、出勤日に集中的に面談を行うという働き方に変えていくという方法もあるでしょう。
弁護士事務所にテレワークを導入する準備
弁護士事務所に本格的にテレワークを導入するのであれば、計画的な事前の準備は不可欠と言えます。突然、明日からテレワークをというのではなく、あらかじめ開始日を職員に伝えておくとともに、とまどう職員がいないよう、進め方にも配慮して準備していくことが大切です。
テレワーク業務とオフィス業務の選別
これまで見てきたように、弁護士事務所においては、個人情報など外部に漏れることが許されない情報を扱う業務も多く、テレワークを認めることのできない業務もあります。テレワークを実施する前に業務の棚卸しを行い、テレワークを認めても問題の少ない業務を洗い出すとともに、これを機に業務分担の見直しや不要な業務の削減や実施方法の改善なども行うと良いでしょう。
テレワークツールの導入
テレワークを導入するに当たっては、職員ひとりひとりに対して自宅用のパソコンを貸与したり、事務所にテレビ会議システムを導入するなど、それなりの費用も伴います。果たしてそれだけの出費をしてまで、テレワークを導入しなければいけないのかと疑問に思うかも知れません。
しかし、思い切ってテレワークを導入することによって、職員の働き方が変わって、時間が効率的に使えるようになり、生活と仕事の調和が図られることで、長期的にみると大きな効果が得られると考えてみてはどうでしょうか。現在、国の方針として「働き方改革」が進められており、テレワークの導入に対してもさまざまな助成金が用意されていますから、これによってテレワーク導入の費用を抑えることもできます。
取引先にテレワークであることを伝える
テレワークの実施によって、クライアントに不利益が及んだり、裁判所、検察庁といった業務上の関係者に迷惑をかけることがあってはなりません。しかし、面談可能な日がある程度限定されることや、場合によってはリモート会議を行うことを知らせておくなど、多少の不便をかける可能性はあっても基本的には対応は変わらないことを、はっきり伝えておくべきでしょう。
テレワーク研修等の実施
テレワークによって職員の働き方に変化が生じることから、これに戸惑うことがないよう、テレワークの目的や意義、テレワークの実施にあたってのルールをきちんと説明することが必要です。また、テレワーク中のコミュニケーション不足から業務のミスや遅れが生じたり、管理者もこれを見落とす恐れもありますし、孤立感を深めて精神的に追い詰められる職員もあるかも知れません。
このため、テレワーク中の職員の相談に乗ったり、職員同士のコミュニケーションをフォローする体制をつくっておくことも大切です。管理する立場にある職員には、積極的なコミュニケーションを心がけるようにするのも有効です。それでもテレワークについて聞きにくい職員のために、短時間でよいのでテレワーク研修を行うのも一つの方法です。
テレワークツール選びが重要
弁護士事務所のテレワーク事情と弁護士と事務員のテレワークの進め方について理解は深められたでしょうか。
弁護士事務所がテレワークを導入するに当たっては、いくつもの課題があること、そして工夫をすることによって解決できる部分があることを見てきました。
最初はいろいろな問題が起きるかも知れません。しかし、テレワークを導入することで、働き方が大きく変化するのみならず、効率的に業務を進めようとする意識の高まりや、生活と仕事の調和が図られることで時間的余裕ができ、モチベーションがアップするなど、メリットも期待できるといえます。
よりよい就業環境のため、テレワークの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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